兵庫県は日本列島のほぼ中央に位置し、豊かな自然環境と多様な産業が共存する地域です。神戸市のような先進的な都市機能を持つエリアや、姫路城を擁する歴史的な姫路市、食文化が盛んな但馬・淡路地域など、さまざまな特色を持つエリアが点在しています。こうした地理的・産業的な多様性は、県内の雇用や賃金水準にも大きな影響を与えています。
本記事では、兵庫県の平均年収について、公式統計である「令和5年賃金構造基本統計調査」のデータを中心に、民間調査の結果も交えて解説します。
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目次
令和5年の調査によると、兵庫県の平均年収は514.6万円で、全国平均の506.9万円をやや上回っています。企業規模別では、1000人以上の会社で590.8万円、100〜999人の会社で502.5万円、99人以下の会社で429.2万円と、規模によって差が見られます（参照*1）。
兵庫県は、全国でも有数の「ものづくり県」です。ひょうご・神戸投資サポートセンターの資料によると、兵庫県の製造品出荷額等は全国シェア5.0％で都道府県別5位、県内総生産（名目）に占める製造業の構成比も27.4％と大きな割合を占めており、「全国有数の工業県」と位置付けられています（参照*2）。
経済産業省の「兵庫県基本計画」では、県内総生産の産業別構成比について、第1次産業0.4％、第2次産業26.8％、第3次産業72.3％とされ、その中で製造業が22.4％と最も高いウエイトを占めることが示されています。製造業の出荷額等は15.1兆円で全国5位とされており、自動車・鉄鋼・機械・化学・医療機器などの分野で全国トップクラスの集積を持つ地域です（参照*3）。
神戸市・阪神間では、神戸製鋼所・川崎重工業・シスメックスといった大企業の本社・中核拠点が集まり、播磨地域では造船・自動車関連、但馬・淡路地域では農林水産業や観光などが立地するなど、「重厚長大型の製造業」と「サービス業・観光業」が両立する多様な産業構造が年収水準にも影響を与えています。
県民経済の側面から見ると、兵庫県の令和4年度の県内総生産（名目）は23兆4,626億円です。名目・実質とも2年連続で増加しており、製造業、卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業などが県内総生産の押し上げ要因になったと報告されています（参照*4）。
暮らしやすさの面では、エリアごとの性格がはっきりしているのが兵庫県の特徴です。賃貸情報メディアの整理によると、神戸市（約151万人）、姫路市（約53万人）、西宮市（約48.3万人）、尼崎市（約45.4万人）、明石市（約30.6万人）などが県内の主要都市であり、阪神間は大阪・神戸の両都心にアクセスしやすい住宅地としても人気があります（参照*5）。
家賃水準は、同じ関西圏の中では比較的「中庸」です。2024年データに基づく調査では、兵庫県全体の平均家賃は1LDK〜2DKで約5.8万円、過去10年間の上昇率は約3.1％とされており、全国平均の上昇率（約3.4％）とほぼ同じペースで推移しています（参照*5）。一方、「街の住みここち＆住みたい街ランキング2025〈兵庫県版〉」では、駅別指標「物価・家賃」部門の1位が尼崎（阪神本線）、2位が播州赤穂（JR赤穂線）、3位が中央市場前（神戸市兵庫区）とされており、阪神間の一部や播磨の外縁部では「物価・家賃の割安さ」が評価されていることが分かります（参照*6）。
雇用環境については、兵庫労働局が公表したデータをもとにした報道によれば、2024年通年の兵庫県の有効求人倍率（季節調整値）は1.01倍で、求職者1人あたりほぼ1件の求人がある状態でしたが、2024年12月には0.99倍と6か月ぶりに1倍を下回ったことが報じられています（参照*7）。宿泊・飲食サービス業など一部業種の求人減少が影響しているとされ、産業ごとに雇用の勢いが異なる状況です。
総じて、兵庫県は
・製造業が強く、県内総生産や雇用を下支えしている
・家賃水準は首都圏より抑えめだが、エリアによって差が大きい
・有効求人倍率はおおむね1倍前後で、求職者にとっては「選び方次第」の環境
という特徴を持っており、「どのエリアに住み、どの産業で働くか」によって、同じ兵庫県内でも年収と生活コストのバランスが大きく変わると言えます。
前半で述べたように、兵庫県は全国有数の工業県であり、製造業の構成比が高い一方で、第3次産業も7割以上を占めるバランス型の産業構造です。この前提を踏まえると、年収アップを目指す上での大きな方向性は次の二つに集約できます。
第一に、「製造業・医療機器・インフラ」など、付加価値の高い産業でキャリアを築くことです。
例えば神戸市に本社を置く神戸製鋼所の平均年収は812万円（平均年齢39.9歳、平均勤続年数15.4年）（参照*8）、川崎重工業は792万円（平均年齢41.5歳、平均勤続年数15.4年）（参照*9）、同じく神戸に本社を置くシスメックス（医療機器）は913万円（平均年齢42.3歳、平均勤続年数12.7年）（参照*10）と報告されており、いずれも兵庫県全体の平均年収514.6万円を大きく上回る水準です。
機械・電気・情報システム・品質保証・生産技術・研究開発などの専門職は、こうした大企業では特に年収レンジが高くなりやすく、同じ兵庫県内であっても「産業」と「企業規模」の選び方によって年収水準が200〜400万円程度変わり得ることが統計から読み取れます。
第二に、「中小企業が多数を占める現実」を踏まえたキャリア設計です。
中小企業庁が公表している都道府県別企業数の統計では、兵庫県の企業数は約13.4万社で、その大半が中小企業とされています（参照*4）。民間の集計によれば、中小企業比率は99.79％、中小企業に雇用される従業員比率は83.41％とされており（参照*11）、多くの県民にとって「最初の就職先は中小企業」というパターンが一般的です。その意味では、
・中小企業で幅広い実務経験を積んだ後、大企業にキャリアアップする
・中小企業の中でも、ニッチな技術や独自サービスで高付加価値を生み出している企業を狙う
といった「成長軌道に乗る企業を選ぶ目」が、兵庫県で年収を引き上げていくうえで重要になります。
兵庫県では、兵庫労働局の発表を基にした神戸新聞の報道によれば、製造業や卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業の新規求人数が前年同月比で減少している一方、情報通信業の新規求人は58.2％増と大きく伸びているとされています（参照*12）。また、厚生労働省の労働経済動向調査では、全国的に「情報通信業」「医療・福祉」「学術研究・専門・技術サービス業」などで人手不足感が高いことが示されており（参照*13）、兵庫県でも業種によって「求人が多く人手不足感の強い分野」と「新規求人が減少し買い手市場になりつつある分野」が分かれつつあると考えられます。
この状況を踏まえると、兵庫県で年収アップを目指す転職・スキルアップ戦略としては、次のような方向性が現実的です。
一つ目は、「製造業×デジタルスキル」です。県民経済計算の結果によると、令和4年度の県内総生産では製造業が対前年度比7.8％増と大きく伸びており（参照*4）、ものづくり分野のDXや高度化が進んでいます。生産管理システム、IoT、データ解析、品質管理など、デジタルと現場をつなぐスキルを身に付けることは、兵庫の産業構造にフィットした年収アップの手段と言えます。
二つ目は、「医療・ヘルスケア分野へのシフト」です。シスメックスのような医療機器メーカーのほか、神戸医療産業都市に集積するバイオ・医療関連企業、病院・介護施設など、医療・ヘルスケア分野は今後も一定の需要が見込まれています。医療機器営業、臨床工学技士、データマネジメント、薬事・品質保証など、医療×ビジネスの周辺職種は、専門性が高い分だけ年収レンジも比較的高めです。
三つ目は、「阪神間・神戸に住みつつ、京阪神圏全体を視野に入れたキャリア設計」です。神戸・西宮・尼崎・明石などは大阪市内への通勤圏でもあり、居住地は兵庫県でも就業先は大阪・京都の企業という働き方も選択肢になります。こうした広域通勤により、「兵庫の生活コスト＋京阪神圏の賃金水準」を組み合わせることで、実質的な家計余力を高めることも可能です。
いずれにしても、兵庫県で年収を高めるには、
・県の強みである「製造業・医療・インフラ」といった産業に寄せる
・中小企業中心の構造を前提に、成長企業や高付加価値分野を見極める
・京阪神圏全体で求人を比較し、リモートワークや広域通勤も選択肢に入れる
といった視点で、キャリアとスキルの方向性を決めていくことが重要になります。
兵庫県の平均年収は514.6万円と全国平均をやや上回り、都道府県別でも上位に位置しています。一方で、企業規模別・産業別に見ると、1,000人以上の企業と小規模企業、製造業・医療機器などの高付加価値産業とサービス業との間には大きな年収格差が存在します。
また、神戸・阪神間・播磨・但馬・淡路という多様な地域特性と、家賃・物価・雇用環境の違いも、同じ兵庫県内での「暮らしやすさ」「年収の実感」を左右しています。
重要なのは、「兵庫県＝◯◯万円」といった平均値だけを見るのではなく、
・自分がどの産業・どの企業規模を目指すのか
・どのエリアに住み、どのエリアで働くのか
・どんなスキルセットで京阪神圏全体の求人にアクセスするのか
を具体的に描きながら、統計と現場感の両方を踏まえてキャリアを設計することです。本記事の数値やリンクを手がかりに、兵庫県での働き方・暮らし方を考える際のベースラインとして役立てていただければと思います。
兵庫、平均年収を地域別・業界別で比較すると見えない好条件企業や適正年収の差が浮かび上がりますので、転職やキャリア設計の参考には統計だけでなく地元ネットワーク情報も併せて確認しましょう。
また、統計データには表れない地域の優良企業や、ご自身の具体的な適正年収に関心をお持ちの方は、地域金融機関と連携し「独自の非公開求人」を多数保有するヒューレックスの情報もぜひご活用ください。
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愛知県出身。大手証券会社、半導体商社の営業を経て、総合人材サービス会社へ入社。 仙台支店での勤務後、大型派遣案件の企画から運用に従事。その後、会社の中核を担う“正社員”のサポートに携わりたいという思いが強くなり、ヒューレックスの設立に参画する。 17年余りにわたるコンサルタントの経験の中で3,000名を超える方々をサポート。個々人の”キャリア”だけでなく”価値観”を大切にしている。
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